つくり手に“並走する”というクリエーション
ドラマトゥルクとは、18~19世紀にドイツで生まれた職能で、オーケストラやバレエの公演に際し、その内容や表現を主催者と一緒に第三者的な視点で考える人のこと。日本ではまだ聞きなれないこの肩書を持ち、ファッションの世界で活躍しているのが、竹内大悟さんだ。
たとえば新しくブランドを立ち上げる場合なら、まずクライアントが選んだイメージやキーワードから、「何がしたいのか」をとことん話し合う。意図を把握したら表現方法を一緒に考える。そこから具体的なデザイン、パターン、サンプル製作、生産、店舗、ヴィジュアルプレゼンテーションに至るまで、コンセプトが踏襲されているか、クオリティは確保されているかを確認し、ものと人をコーディネートする。つかず離れず並走する“伴走者”というスタンスだ。ほかにショップを定期的に訪れて、服のセレクトや見せ方の相談にのるケースもある。
ドラマトゥルクはファッションを“つくりだす”という意味では、当事者ではない。限りなくつくり手に寄り添いながらも、予定調和ではないもののあり方や重層的な視点を提供し、クリエーションの質を高めていく。
「別の見立てを、求められているのだと思います」
コミュニケーションが特別な個性をつくりだす
高校生の頃から服が好きだった。だが、みんなが流行のものを着ることには懐疑的だ。「服を着ないと捕まるのは何故?」というシンプルな疑問から、ファッションの道を選んだという。「ファッションは表層的ですが、その人の入り口に確実につながっている。生活や社会と関わること抜きには、ファッションは語れません。だから服は面白いんです」
明星大学在学中は「ファッションの外側でファッションを考える」べく、ひたすら言葉にこだわり、多方面にアプローチして発想する思考方法を身につけた。一方で、有名ブランドの採用試験や賞の審査で痛感したのは、専門的な技術力の不足だ。勢い込んでいた気持ちは砕かれ、途方に暮れた。けれど服づくりをあきらめず、改めて技術を学び直す。デザイナーとして社会で戦う術を身につけた上で、「すでにある服づくりではない立ち位置」として表明したのがドラマトゥルクだ。今は自分の仕事を精査しつつ、この職能を確立したいと話す。
また竹内さんは新しい考え方のファッションブランド『FORM ON WORDS』のデザイナーも務めている。このプロジェクトでは子どもたちとのワークショップを通して、古着から新たな服のかたちをつくりだす。服が持つ物語や社会性、消費といった側面に、“言葉”をキーワードにしてアプローチする。
ものづくりのスタートは、まず話すこと。そこから見える課題こそが発想の源であり、今求められているものだ。個性を重要視されるファッションだからこそ、人と関わることで生まれる多面性が意味を持つ。竹内さんには独自の存在感がある。
profile
たけうち・だいご 1977年生まれ。明星大学でファッションデザインを学んで卒業。ネットで自作の服を販売しつつ、文化ファッション大学院大学で技術を学び、2011年より『SHITURAE』を運営。東レ「先端材料展2011」のデザイン企画制作などを担当、主な取引先に株式会社コムデギャルソン、株式会社エイ・ネットなど。また、アート的な手法を取り入れたファッションブランド『FORM ON WORDS』として、グループ展「拡張するファッション」(水戸芸術館、丸亀猪熊弦一郎現代美術館/2014)、「服の記憶」(アーツ前橋/2014)に参加。2015年より湘南T-SITEでワークショップも展開。
www.shiturae.com