育った地元に根を張る
福海洋介さんが所属した福生市役所の総務部契約管財課は、市庁舎やもくせい会館、空き地、自動車など市の財産の管理保全を担当する。事務仕事もあるが、建物の状態を見まわるなど大半は体を動かすことだ。毎日決まったルーチンワークではなく、勤務時間内の使い方も基本的には自己管理で、あとは成り行き次第。この日の朝は駐車場の破損事故を対処し、午後は数名の職員と一緒に、降ってきた雪に備えて歩道に融雪剤をまいた。年齢もバラバラな職員たちと言葉をかわしながら、テキパキと作業を終わらせる。このほか芝生の水やり、夏は緑のカーテンづくりなど、季節や天候、議会での決議、市民からの通報など急な仕事にも臨機応変に対応する。デザインどころか、縁の下の力持ち的な仕事だが、福海さんは「毎日が新鮮です」と笑う。 幼い頃から福生で育ち、実家が地元で会社を経営していることもあり、もともと福海さんと地域とのつながりは深い。地学を志して二浪した後に通った専門学校や最初に勤めた会社、そこから一転してデザインを学んだ明星大学と、どれも「近所」というから、このエリアへの愛着は相当なものだ。市庁舎の保全について職員たちと相談する様子からも、自分のこととして考えているようだ。地元にしっかりと根を張り、そこを豊かにしていくことは、福海さんにとってごく自然なことなのだろう。 「彼が来てからいろいろアイディアを出してくれるので助かりますよ」と教えてくれた年配の職員のまなざしも、まるで親戚の青年を見るかのように温かだ。公務員こそデザインセンスが必要
自分の性格を「飽きっぽい」と話す福海さん。最初に勤めた会社も「毎日同じことの繰り返しに飽きて」退職したのだとか。その点、今の仕事は体を動かして取り組む現場仕事と、集中して図面を引くような作業があるので達成感も得られ、バランスがいい。そんな多様な仕事をこなすなかで、「公務員こそデザインのセンスが必要」だと感じている。 「デザイン=調整力。人と折衝することも多いので、最後は両者が納得する最適なかたちに落とし込まなければいけません。また、ものの見方が片寄っていたり、出した結果がチグハグだったり配慮が足りないといったことも起こりかねない。話の持っていき方を含め、方法や使い手のことを考えるセンスこそが、デザインなのだと思います」 実はこの夏、自宅に自分の工房と母のためのギャラリーを開くという。造形芸術学科出身だけあって、手を動かすことが、やはり好きなのだ。 「いつか地元で、学生や地域の人たちが発表できる大きな展示スペースをつくりたいと思っています。福生をものづくりの面から強化したい。公務員はそのための資金づくりと、行政の内側から仕組みを変えられないかと考えたからです」 「飽きっぽい」のは「創意工夫したい」という裏返し。どうやら長期スパンで地元の未来をつくろうとしているようだ。profile
ふくみ・ようすけ 1983年東京生まれ。地学を志したが失敗し、浪人生活の後に国土建設学院で測量技術を学ぶ。DMS社で地形図を書く仕事に従事するが2年で退社し、2007年明星大学に入学、造形デザインを専攻した。子どもの頃から手を動かすのが好きで、福生市のエコレンジャーを発案して自ら製作。2015年夏頃、自宅に工房とギャラリーを開設予定。

